LTCCの可能性
 
−大原部長−
 2000/09/05(火)発行分

 (1)LTCC

 LTCC(low temperature co-fired ceramics)の大手との取材報告です。
 現在のLTCC市場は、主に携帯向けのアンテナ・スイッチ・モジュール用途が牽引しています。携帯向けLTCCでは、トップの村田で年間1億個強、2位以下は、日立金属、日本特殊陶業で年間数千万個の市場です。1個は、120円程度と推定されます。

 LTCCの機能は、電波を振り分けたり、特定の帯域のみを通過させたりする、いわゆるフィルタ機能です。アンテナ・スイッチのLTCCはセラミックの15層から20層の多層基板です。その中に、コンデンサやコイルを作りこんでいるという点で、今後の受動部品の需要動向に大きな影響を与えるといわれています。

 このコラムでは、LTCCの将来性とともに、LTCCが受動部品の脅威となるのか、また、RFのIC化はLTCCの脅威となるのか、など、今後、キーポイントとなる総合的なRF部の動向をお伝えします。

 さて、LTCC基板とは、どんなものでしょうか。セラミック基板の積層ですが、一枚一枚厚さも違うし、材質も違います。誘電体基板と磁性体基板の組み合わせの技術とスクリーン印刷の精度が求められます。もちろん、総合的な回路技術と電磁気学の高い素養が求められます。
 コイルとコンデンサを多層基板に作りこむ具体的な方法は、基板に配線材料などを書き込むわけですが、その配線部のことをマイクロストリップやマイクロギャップといいます。コイルの書き方やコンデンサの書き方があるというよりは、LC(コイルをL、コンデンサをCと表します)の特性を一本のストリップで作るというものです。ですから、コイルとコンデンサが何十個合わさったデュプレクサやダイプレクサなどは、一見すると何がコイルで何がコンデンサなのか、わかりません。
 肝心なのは、電磁気学の方法論です。世界が回路設計と違うのです。入った信号と出て行く信号が規格通りになればそれでいいということなのです。等価回路通りLCを並べるだけでは動きません。

 もうひとつ、このLTCCというのは、あくまで、誘電体フィルタなのですが、これはメーカごと、機種ごと、搭載部品ごとに違うフィルタを使っているという事実です。
 電波が入ってくるところをフロントエンドといいます。LTCCはフロントエンドで使われる部品です。このフロントエンドの性能は、IF部(中間波部)やベースバンド(信号処理部)の性能によって違ってくる。よい電源、よい受動部品、よいICを使えばLTCCはラフでよい。減衰が大きい安い受動部品、安いICを使うとLTCCは高精度なものとなる。また、プリント基板が変わればLTCCも変わることになります。外付け部品の特性によっても、LTCCが変わります。これは、ひとえに、外部部品の減衰の仕方がそれぞれ違っていることに起因します。

 前回、GSMとDCSに加えてWB−CDMAが搭載されることになると話しました。これは、LTCCにとっても、大変なことです。CDMAはスペクトル拡散ですから、まったく要求されるフィルタが違うからです。この3つのバンドをひとつの基板にするのは非常に無理がある、と指摘しておきます。
 有力アナリストの中には、有機材料(プラスティック)基板が、LTCCを置き換えるという乱暴な人もいます。しかし、特性が安定しないプラスティックでは、無理というのが、高周波部品業界の常識です。
 例えば、有機材の中に磁性粒を均一よく分布させることひとつをとっても難しいし、現状求められる誘電率では、セラミックが最適といえるからです。誘電率こそが、LTCCの特性の基本です。
 強度の面でもプラスティックは無理でしょう。強度試験では、1メートル上からコンクリートに落とす試験があります。焼成したセラミックは強いですが、熱にも衝撃にも弱いプラスティックが、一ヶ所の微妙なずれが出力段階で非常に大きなずれになるミリ波分野で主流にはならないでしょう。マイクロ波というものは、すこしずれたらおおきくずれるものだからです。
 セラミックは、厚みが要求されるLと面積が要求されるCを同じ温度で同じスピードで焼結させ縮ませるという職人的なことをやっています。コストがかかるというのは、効したプロセスに負うところが多いと思います。基板メーカーは、受動部品メーカーに基板材料、電極材料を提供する方向です。受動部品メーカーは、セラミック基板の扱いにはなれています。LTCCは部品側からの支持を得ています。

 さて、LTCCの需要ですが、将来は、パワーアンプ周りの受動部品も集積したいところですが、そう簡単にはいきません。しばらくは、フロントエンドに留まるでしょう。
 それは、PAはICメーカーが強く、とくにWBCDMAになれば、GaAsチップが主流になります。パワーが大きいチップを使い続ける限り、RFすべての集積は無理でしょう。
 第一、集積の目的は、小さくすることです。わざわざLTCCで集積するより、受動部品を小型化することで達成できます。現状では、受動部品では、1005が主流です。0603はこれから出てきます。
 それと、LTCCでは、高性能の受動部品は作成できません。数pFのコンデンサなどは集積できるでしょうが、大容量のコンデンサは無理です。抵抗はまったく無理でしょう。抵抗は精度を上げる工程では、トリミングといって、配線部を一部切り取ります。LTCCでトリミングは出来ない。なにが抵抗なのか、判別するのも一苦労です。コイルも厚みが必要な点が、多層化のネックでしょう。
 また、セットメーカー側は、大規模LTCCを採用する動機がない。むしろ、長年、ノウハウを集積できている受動部品のところで、回路のノウハウを発揮しようとします。受動部品がなければRFはただの商品となってしまう。セットメーカーが自己否定をするわけがありません。各機能で求められる基板の層数がまったく違います。PAでは3層でよい。アンテナでは20層が必要です。電源ICはもちろん3層以下でしょう。20層の基板でPAや電源ICを実装するのは、割に合いません。PAなどは、WBCDMAの初期段階では、限りなく高出力になります。基地局が少ないので。これは、トレンドと逆行するわけです。
 こうした特殊な事情をひとつひとつ吟味することが、重要です。

 LTCCはフロントエンドの領域で大幅に伸びる。ブルーツースなどへの採用も決まっている。将来は、10億個以上の市場になる。一方で、受動部品も高機能部は、必ず残る。特に、抵抗は無傷。LTCCでさえ、作りこまない。セットメーカーは受動部品を作り込ませない。受動部品の市場も拡大。ただし、樹脂の基板には用がない。

 

(2)IC化の脅威

 受動部品でも、LTCCでも、ICでも、RLCをつくるということには違いがありません。要は、シリコンの上に、RLCを作るというだけの話です。
 なぜ、ICにRLCを作るのか。それは多くのRLCを集積しても、チップは非常に小さくなるからです。一方で、コストは一番高い。高価なクリーンルームで、高価な製造装置を使って、高価で変更の効かないマスクで作るからです。

 ICの欠点は、非常に微弱な信号を非常に上手に増幅しなければならないことです。わざわざ微弱な信号にしなければならない。それをわざわざ出力の高いものにしなければならない。LTCCは、外付け部品の減衰特性で、その設計を簡単に変えられるけど、ICは、まさか、高価なフォトマスクをいちいち変更できません。
 また、セットメーカーはワンチップソルーションという自己否定をしないでしょう。もう少し技術的な問題になると、たとえば、抵抗をシリコン上でつくると材質はポリシリコンとなります。しかし、抵抗屋は酸化ルテニウムなどを抵抗材として使用しています。温度特性を改良するためには、セラミックの焼結などのプロセスは欠かせません。だから、抵抗はセラミックから作られるのです。

 コンデンサは面積が必要です。なぜ、微細なプロセスでわざわざ大容量のコンデンサを作る必要があるのでしょう。結局、シリコンでできたRFは誰も使わないでしょう。セットメーカーの反対、特性に劣る、リードタイムが長すぎる、プロセスがあってない。それと歩留まり。LTCCにもいえるが、ICも回路全体がだめになれば、全部だめになる。

 

(3)設計者がたりない

 無線のソルーションは、携帯のみならず、PDA、ノートPC、そして、それらを結ぶブルーツースなどに拡大します。しかし、メーカーごとに、エンジニアごとに、好む外付け部品やICがあるため、フロントエンドの標準化は、絶対に無理です。機器ごと、機種ごと、エンジニアごとに、違う設計が必要になります。
 それも、電磁気学上の解決が急激に増えてくる。アナログの中でも特殊であるマイクロ波技術は、今後も、株式市場において、注目の的になるのは、疑いようがありません。回路技術者というよりは、回路保証のノウハウに長けた企業が覇権を握るでしょう。

 

(4)投資対象

 コンデンサの村田、コイルのTDK、抵抗のロームなどの部品メーカーがLTCCのノウハウを身につけるのか、それとも、PAの日立など、ICメーカーがLTCCを利用するのか、それとも、特殊陶業、京セラなどのLTCC基板メーカーが有利になるのか。
 基板と部品を併せ持つ村田が優位なのは明らかです。それと、星の数だけあるICと部品メーカーにくらべ、基板メーカーは限られる。ですから、特殊陶業や京セラは、有利です。

 無論、部品の大手企業は、メーカーへの発言力もあることから、TDK、ローム、KOAなども安心です。ICメーカー、SAWフィルタのメーカーもLTCCを扱う努力をしています。要は、電磁気学の素養という点からは、NEC、日立は遅かれ早かれキャッチアップできるでしょう。

(インプリケーション)

・受動部品は、まだ伸びる。それは、まだ、小さくできるから。特に、抵抗は LTCCの代替の脅威がない。よって、KOAは買い、ロームの抵抗セグメントは問題なし

・LTCC関連は大きく伸びる。村田、NGK、京セラは買い

・GaAsICは競合が厳しい。しかし、生き延びる。

・SiGeはRFの主流にはまだならない。もちろん、受信部のいくつかのTrを置き換える可能性は高い。日立に注目している。

・なぜ、RFを小さくするのか。それは、携帯が多機能化するからである。デュアルバンドに加えて、CMOSセンサー、IrDAやブルーツースなどを載せようとするなら、各ユニットがもっと小さくなければならない。小さくすること=集積である。しかし、集積の方法は、受動部品をもっと小さくしてもできるし、その方がメリットが大きい。

・これだけ、携帯電話に各部品屋とIC屋が特化すると、ますます、携帯関連以 外の分野は残存者利益が発生する。AV用途や高耐圧用途(ケミコン、富士電機、サンケン)などは、がら空きとなり、株価という意味では、裾野の広い物色展望が期待できる。

・技術動向は、技術が優れているかどうかではなく、市場に関わる参加者がどう考えるかで、市場参加者の力関係で決まります。受動部品の発言力が非常に高いということは、株をやる上で、気にするべきでしょう。例えば、村田がアンテナモジュールをノキアに納めて、エリクソンに供給しない、と決定すれば、エリクソンの命運もそれまでです。セットメーカーなら、需給が逼迫した最悪の場合を想定したうえで、仕様を決定します。その解決がICによるワンチップ化となるはずがありません。


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