住友ベークライト(東4203) 2000/07/10更新

2000/07/10(月) 

住友ベークライト(東4203) ☆☆☆☆

<企業経営の見本>

 よい経営の見本のような会社です。ROAが経営目標となっています。ROAとは、リターン・オン・アセットといい、事業利益÷総資産で算出します。事業利益とは全資産を用いて、その結果得られる収益ということで、大まかに言えば営業利益で代替可能です。ですからROAは営業利益÷総資産です。
 先日は、住友特殊金属のことを少し紹介しましたが、そのとき、資産効率ということをお話しました。資産効率とは競争力であり、経営努力であるということを書いたつもりです。ここでは、やや詳しく経営の本質のようなお話をしたいと思います。

<資産効率とは競争力であり、経営努力>

 例えば、同じものを製造するときに、違う工程を選んでいる場合が多々あります。切るという作業ひとつとっても、ドリルなのか、レーザーなのか、ブレードなのか、エッチングなのか、プレスなのか、多様です。どれを選んでいるかで、速さと正確さがわかります。遅いけど正確である場合と早いが粗い場合とに分けられます。工程が早いとコストも少なくなります。工程が短いと機械も少なくて済みます。
 まず、工程を理解しようとします。ノウハウはどこなのか推測します。例えばこの会社の場合、封止材とは何でしょうか。単なる保護材でしょうか。強度や劣化の度合いはどの程度まで許容できるのか、封止材料と金型との相性はどうなのか。低温プロセスで大丈夫なのか(封止材は有機材料であり、高分子です。その特徴は、莫大な種類があるということです。まだまだ未発見の分子はいくらでもあります)。などなど、これは自分の頭で考えることです。
 私は投資プロセスの中で、この過程が一番楽しい。

<工程を理解しよう>

 この会社の工程は、ただみたいな材料を混ぜる技術ということです。 だから必ず資産効率はよい。混ぜるノウハウというものは、作り方よりは、むしろ、頭の中にあるものだからです。材料費率が低ければ、これはまさしくよい事業です。
 ただし、汎用ものになると、競争がきびしい。混合比率を発見されれば、誰でも応用できてしまう。そうなると、会社としてとるべき道は、ニッチ分野への展開です。そのひとつが半導体関連だった。そしてシェアを押さえてしまった。次々と新しい特性が必要となるこうした分野こそ、この会社の技術的本質と市場特性がマッチしているからです。
 技術的本質(混ぜるバリエーション)と市場特性(短い製品サイクル)がマッチしている。

 読者の皆さんは、この会社の資産と売上の比率(回転率)を算出してみてはどうでしょうか。そして、皆さんがご存知の他の企業の数値と試しに比べてください。どうですか。

 ROA経営というのは、政治が絡まないから私は大好きです。企業における政治とは、予算のぶん取りあいのことです。少しでも多くの予算を各部門がやっきになって陳情する。そうなると投資効率は落ちます。
 住友ベークの場合、20の製品グループに課せられているのは、毎年1%のROAの改善です。各部門が資産を割り当てられている。そのやり方は問われない。分母を少なくしてもよい。分子を多くしてもよい。あるいはその両者でも。そして、その結果は、役員会の席順として現れます。
 成績のよい部門は社長のとなりに座ります。そして、発言も最初です。成績の悪いところは、末席です。設備投資は予算の取り合いではなくなります。下手に設備を購入すると資産が膨れていくからです。するとROAは悪化する。自信と確信に満ちたときに限り必要な投資をしかける。大胆に戦略を実行する。

 その結果どういうことが生じるのでしょうか。 競争力のある要素技術のある製品は、M&Aをしてでも、お金を出してでも買って来る。絶えず、強化していく。
 一方、競争力のない分野は、スピンオフ(事業売却)する。その際、業界1位の企業に売却し、過半数をその強い企業に渡す。持分で利益を得る。
 強い部門は残すだけでなく、より強化する。
 弱い部門は、一番強いところに売却し、おこぼれをもらう。

 よい経営とは、
(1)自己の強さを認識できていること
(2)それは、自己の弱さを認識できていることと同義
(3)強いところをより強化すると、新しい用途が開けることを知っている
(4)弱い事業が、一時的によくなっても、それは景気回復などの一時的な結果であるとわかっている。時間はなにも解決しないことを知っている。だからスピードと決断力がある。
(5)結果的に、事業の再編を促すことができる。

<よい経営はよいM&Aができる>

 例えば、この会社は、フェノールに圧倒的な強さを見せています。フェノールが改良されていくと、フライパンの取っ手に使われていたものが、自動車部品に採用されたりとか、封止材特性と極めていくうちに、レジスト材や基板材の開発に結びつくとか。要素技術に優れていれば、よい市場を探して参入する必要はなく、市場を自ら作り出すことができる。
 事業の選別基準、投資基準については、どうしてこの事業を選別したのか、その理由がいつも一貫しているかどうかが、よい経営かどうかの選別基準です。
 よくあるのは、顧客に頼まれたから、という理由です。頼まれたらいつもやっていては体が持ちません。自分の要素技術と離れたところをするのであれば、当然、大胆な投資は控えるべきです。自己の要素技術にかなうことであれば、その事業を選んだ理由がはっきりしています。それは、自分たちが一番得意なこと、だからです。「得意」だからやりました。という理由がほしいのに、しぶしぶ付き合いでやる、というのは結構あるのです。

 投資基準については、例えば、10%以上の投資利回りがあるから、投資するという基準があれば、投資家は納得するわけです。一応、前提のある投資であり、諸前提を聞くことができるからです。リターンがどの程度あるのか、その計画を聞くことができる。そして、投資基準は同時に撤退の基準でもあります。投資した基準を得られない場合の、撤退の理由になるからです。
 しかし、信じられないことに、こうした投資の基準がない企業が多いのです。それは、事業部の役員が、先を争って、投資予算をぶんどってくることが事業部の存在をアピールする手段だからです。つまり、どれだけ多くの投資予算を他の部署に取られないでぶんどれるかが重要だからです。投資の結果については重要でなかった。だから、大多数の企業では、投資基準が数値基準ではなかった。事業部ごとの政治だったのです。

 新しい市場を見つけ、評価し、投資を決断するところから、企業の市場内での序列が決まってしまう。新しい市場は、新しい技術に裏付けられます。その技術への投資は、いうまでもなく、先行投資、R&D費用となります。なんでもつばをつけ、ちょこちょこやっている企業もあれば、要素技術をできるだけしぼり、集中してある技術だけを磨いている企業もあります。
 一般的に自信がある企業は、自己の要素技術を信頼し、自己の要素技術の応用先を開拓しようとします。そのため、応用先からの良質の情報が不可欠です。
 応用先とは、ずばり、顧客先であります。顧客からの信用がなければ、情報はまったく手に入りません。顧客との信頼関係が応用市場における成否を決定します。
 逆に自信がない企業は、情報がないがゆえの自信のなさです。そういう企業は、真似は上手ですが、新しい市場を開拓するという気概がありません。自己の要素技術を磨いて、新しい市場を開拓しようとするよりはむしろ、成長市場を安易に選択し、その市場でなにかできることはないかと考えてしまいがちです。自らの強さを理解せず、市場から選んでしまう。その結果、成長市場製品の下請け的な立場に甘んじることになります。

 市場環境に身を任せるのか、自らの強さを信じるのか、それは、まさしく、経営者の資質にほかなりません。

 おいおい、住友ベークのことを書かないで、経営の話になってしまっていない?いつものことながら、申し訳ないです。

それでは住友ベークのまとめ:
(1)よい経営
(2)よい資産効率
(3)成長分野も多い
(4)そこそこのバリエーション
(5)株は買い:中期的に2000円程度を目標
(6)でも迫力はないね(だから日本株ベスト10には入らないけど、ベスト50には入る)
(大原部長)

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