日本電気硝子(東5214) 2001/06/12更新

2001/06/12(火)

日本電気硝子(東5214) ☆☆☆☆

 【不細工な努力家】

 億近ゼミでは、「蛍光灯は生き残るか」などのシリーズをはじめ、身近な部材が将来どうなっていくのか、これまで議論してきた。
 大型ディスプレイでは、PDP(プラズマ・ディスプレイ・パネル)、プロジェクションTV、そしてFED(フィールド・エミッション・ディスプレイ)など、次世代大型ディスプレイ候補が注目され、中型小型では、液晶と有機ELが話題になっている。
 ディスプレイを追いかけて、ブラウン管というのは、性能面、価格面で非常によいディスプレイであるということを再認識した。もちろん、フラットでない、重いなど、デザイン上、不細工なところはあるものの、値段と性能との見合いであれば、非常によく出来たディスプレイだ。

 1台数キロという重さは、CRT(カソード・レイ・テューブ)が硝子の塊であるためである。近年、ソニーのベガシリーズで平面化が達成されたあと、小型CRTまでが平面化の対象となってきた。市場は、今も直、毎年、数量ベース・金額ベースとも平均して5%の伸び率を示している。
 全世界で毎年2億5000万台が生産されているCRT市場。
 大型中心のテレビ向けCRTと中小型中心のPC向けCRTモニターに分けられるが、CRT硝子ということになれば、重量ベース&金額ベースでテレビ用途が75%を占めPC用途を圧倒する。だから、CRT硝子を占うには、世界のテレビの売れ行きが重要となる。

 また、2億台を超える市場というのは、どれほど大きいかといえば、PDPが5年先、100万台に届かくかどうかというレベルである。液晶も、まだまだ数千万台というレベルである。液晶とCRTとを硝子使用量で比べれば液晶はCRTの1%に満たない市場だ。

 そもそもCRTは儲かっているのか?
 ブラウン管メーカ(ソニー、三星、LG、日立、中華映管など)は苦しい。どんどんコストの安い海外生産に逃げている。90年代はどんどん海外生産が加速していった。そのため、硝子も現地生産を余儀なくされ、CRT硝子メーカは釜や成形設備など多大な設備投資が必要になった。

 ところが、硝子生産は、旭硝子と日本電気硝子が市場の大半である2/3を占めている。規模の経済が働く装置産業であるため、寡占市場だ。特に電硝は、国内にこだわっていたため、海外展開を急いで行なった。そのため、有利子負債は一時は2900億円(99年1Q)まで膨らんだ。
 収益性は、電硝の営業利益率が10%以上、その中で新規事業(LCD硝子やPDP材料)が赤字であること、R/DのほとんどがTFTやPDP開発人員であることを考えるとCRT硝子の収益性は安定しているうえに、15〜20%程度とかなり高いことがわかる。

 そして、今後10年間はCRTを直接脅かす次世代ディスプレイはないと考える。もちろん、携帯端末やノートPC、家庭での2台目TVとか、車のモニター向けなど新規需要のほとんどは、液晶やPDPなどの新型ディスプレイに譲るとしても、基本的なテレビというのはまだまだCRTでありつづける。

 3000億円事業の毎年の平均的利益率15%というのは、450億円。電硝の時価総額は2600億円。つまり、5年程度フローでカバーできるという評価はかなり低いほうだ。顔や性格(性能や価格)はいいけど、スタイル(デザイン)が悪いため、全然、もてないという子がどこにでもいるものだけど、やはり性格がよく、金持ちなら、それなりに結婚できるものじゃないだろうか。性格が悪いけど顔やスタイルがいいという子は、どうしてあんなにもてるのか、確かに、付き合ってみたい、うらやましいなあ、と思うが、毎日顔を見合わせるのなら、性格がよいほうがいいに決まっている。

 そして、実際、電硝はダイエットの努力をしているのである。
 有利子負債をピークの2900億円から2001/3は2200億円に激減させた。さらに数年で1000億円程度(売上の25%程度まで削減目標)まで減らしていく予定だ。

「CRTでつくった借金はCRTが元気なうちに返す」(森本専務)。

 人員も減らしている。今後毎年100人程度減少していく。ピークで4500人だった人員は今期中に3000人を切るだろう。これは大変な努力だ。
 人員減、借金減という大変な努力と寡占市場。CRTはキャッシュ・カウ・ビジネスだ。評価がもっと高くていい。

 営業利益400〜500億円の実力があり、なおかつ借金返済のめどが立っている。そして、償却費400億円弱なので、EBITDAで800億円程度のフローがある。EVは8000億円程度あっていい。実際は、4400億円。

 

【経営のフォーカス】

 単純な人間はある意味非常に強い。電硝の戦略は、単純明快だ。「ディスプレイにフォーカス」。硝子といいながら、これほどまでにディスプレイのみを黙々と手がけてきた経営陣に拍手を贈りたい。

 注目すべきは、TFT向け硝子。製法はフュージョン法。
 コーニング、NHテクノ(板硝子−HOYA連合)、電硝、旭硝子の4強。50%近くをコーニングが取る。しかし、CRTでもコーニングが独走していたが、電硝が最終的には捕らえた。この4強のうち、1社か2社は脱落していくだろう。そのとき、フュージョン法は有利なのかもしれない。

 板硝子も電硝もPDPについてはフロート法を用いている。しかし、TFTについては、技術的なトレンドから判断すると硝子はどんどん薄くなっていくことが予想される。研磨が必要ないフュージョンが有利であろう。4強のうち、1社だけフロートをTFTに適用した。旭である。「0.4mmはクリアした」(旭硝子)としている。しかし、電硝は50ミクロンをすでにクリア。1桁の差がついている。旭は大型化すれば有利というが、フュージョンも縦方向はいくらでも長くできるし、横も成形の問題で長くできる。フロートとフュージョンの使い分けをしている板硝と電気硝にくらべて、旭の独自性が目に付く。市場シェアでいえば、80%がたはフュージョンが支持されている。

 さて、電硝が、このTFTで評価がされない理由は、電硝自身にある。 3年前までスリットダウンという独自の形成法をTFT硝子製造で試していた。研磨などの加工コストが負担になり、断念。2−3年前から本格的にフュージョン法を習得。年々コストを下げてきている。

 「マラソンでいうと、いままでは先頭ランナーの背中が見えなかった。しかし、今は、はっきりとゼッケンが見える。今年は並び、来年は追い越したい」(電硝IR)。

「こまかいコストまでいえないが、フュージョン法にして、劇的なコスト改善をなしえた。これでいけると確信している」(森本専務)。

「旭のフロート? フロートが得意な会社が得意な工法でTFTにも挑んできただけ。どちらが勝つかは歴史が証明する」(森本専務)。

「でも今は、シェアが低く、うちは大きいことがいえない」(IR)。

 そう、ポストCRTはCRTと決め付けないで、ポストCRTに本気で取り組んでいるこの会社の危機意識に感心している。ディスプレイへのこだわりを評価したい。

 そのこだわりは、成膜技術だ。スパッタリングやCVDなどへかなりのR/Dをつぎ込んでいる。設備投資のかなりの部分は成膜装置購入にまわしている。実は、低温ポリTFT基板でも、アモルファスシリコン膜をCVDして、その後レーザでポリ化している。電磁波防止膜なども要請があるという。TFT液晶メーカは、硝子側に膜付けまでやってもらいたいのだ。というのは、製品に欠陥がある場合、膜に欠陥があるのか、硝子に欠陥があるのか、液晶メーカは知りたい。硝子メーカは成膜までやらされるととるか、成膜までやることで付加価値がとれるのか、判断は分かれるところだが、より多くの工程を手がけたいという電硝の心構えを評価している。

 PDPについては、本格的な出荷が今年から始まるが、ここでも高いシェアをもつペースト材をベースに、導電膜付けをしてから硝子を出荷している。
 CCD硝子を手がけるが、ここでも紫外線シャットアウトのための薄膜を施している。

「半導体薄膜技術者を採用している」(森本専務)。

「CRTだって、電磁波防止膜を薄膜でつけている。静電対策として導電膜で逃がすために導電膜もつけている」(専務)。

「投資効率は今後どんどんよくなる。一台当たり数kgのCRTと一台当たり数gのTFTと硝子の消費量が違いすぎる。参入障壁がない分、こころしてかかわなければ勝てない。だから薄膜だけは負けたくない」(IR)。

 この会社はディスプレイ薄膜加工にかけている。その執念がある限り大丈夫だ。生命力のある組織だと思う。

 評価が足りないのは、自業自得の面がある。IRは説明会もしない。証券会社はカバーしない。CRTと聞いただけで、つまらない、バリエーションがつかないと決め付けている。

(1)ポイントはCRTの安定度とバリエーションの低さ
(2)成長力はTFTとPDPで補う
(3)バランスシート改善
(4)人員削減

以上、2−3年の優良投資先と判断した。買い。2400円目標。(大原)

 

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