安藤電気(東6847) 2000/04/17更新

2000/04/17(月) 
安藤電気(東6847)
 私は、人間には4種類のタイプがあると思います。1)難しいことがすぐにできる人、2)難しいことを時間かけてやる人、3)簡単なことだけをたくさんする人、4)簡単なことでさえ時間かけてする人の4タイプです。企業も同様に4種類です。
  1. 簡単なことでさえ時間がかかる企業が10%
  2. 難しいことをすぐにやってしまう企業が10%
  3. 簡単なことをせっせとやる企業が40%
  4. 難しいことを手間暇かけてやっている企業が40%
といったところです。

 難しいことをさっさとやってしまう企業は評価が高いのですが、次から次へ挑戦分野を自分で見つけてくるので、さらに評価が高くなります。ここでいう「難しい」は、必ずしも技術面に限りません。アクティブでフラットな組織を維持するのも難しいことです。効率のよい販売チャネルや人事システムを構築するのも難しいことです。
 中でも一番難しいことは、どの事業を強化するか、どの市場を最重要ターゲットにするかといった、事業の選択問題のように思えます。なにを選択するかは、企業の賢さやセンスです。優秀な企業でも競争の厳しい市場では意図した結果が出ないこともあります。普通の会社であっても、競争相手に恵まれた市場では抜群の成績を残すことも可能です。己を知る企業は賢い。例え簡単なことしかできなくても、製造コストが圧倒的に安い企業はよい投資になりえます。

 さて、先日、安藤電気(東6847)に行ってきました。売上は、半導体検査装置と各種計測器がそれぞれ半分程度を占めます。ライバルはアドバンテスト(6857)です。ところが、安藤電気は10年前くらいまでは、アドバンテストと渡り合う会社だったのですが、今では、ライバル・アドバンテストに大きく先を越されてしまいました。売上規模でアドバンの数分の1です。
 さて、半導体のテスターは、かなり高度な設計技術が要求されます。半導体チップ内部の実際の動きをチェックするわけですから。チップには、それぞれ設計上こう動くべきという理想があります。それが実際、そう動くかどうかを実測するわけです。いろいろな信号を入力して、それがきちんと処理されたかを見るわけです。
 製品としては、テスターは、1年に数十台出荷できるかどうかの製品です。したがって、その部品は標準品を多く用いることになります。しかし、テスターの心臓部分の回路は、標準品でなく、特注でチップを作ることになります。特注チップというのは、大量生産されるので特注にする場合が多いわけです。通常は。テスター用チップは、年に数十個しか出ないのにそれを特注でつくるわけです。どれだけ費用がかかることでしょう!マスクを製造するだけで数千万いるわけですよ。たった数十個のチップのために。

 さて、安藤電気です。安藤電気のエンジニアは特性のよいガリウムヒ素のチップを採用しております。それは高いけど、特性がよいからです。
さて、アドバンテストです。アドバンテストは特性の悪いCMOSのチップを採用しています。それは安いからです。
 さて、話を1年半前に戻します。当時、ランバステスター(ランバスDRAM用テスター、動作周波数が数百MHzに達するため、テスター製造の難易度が飛躍的に上がった)の開発でアドバンテストが苦戦している(といわれていた)ときのことです。わたしは、アドバンの丸山常務にお会いして、当時話題になっていたランバスDRAM用テスターの問題点についてお聞きしました。CMOSチップのせいでジッター(チップの信号が揺らいてしまうための計測誤差)が出て、それが致命的である、というコメントがセルサイドのアナリストから出ていたため、確認に行ったわけです。
 アドバンの丸山さんは笑って言いました。「大原さん、ジッターの問題なんて、高い石(チップのこと)を使えばすぐに解決できるんだよ。いいものをふんだんに使ってよい性能を出すのは当たり前のことだよ。うちは、安いものを使って、どうしたらよい性能が出せるか、いろいろやっているのだから、君は黙って、まあ、見てなさいよ。」 私は、一介のアナリストとして、恥ずかしい思いをしました。
 事業の性格として、テスターを作るのは難しい部類に入るでしょう。テスターの工場は、ベルトコンベアーが流れていて、つぎつぎに部品を組み立てていくようなものではありません。大きな部屋に装置を運び込んで、性能を調整するわけです。ひとつの工程が終わると、また、次の大きな部屋に運んで、そこでまた性能を調整する、という繰り返しです。そうやって、新しい機能を加えていきます。ですから、人間の持続力や器用さより、頭のよさ(=生産性)が収益を左右します。

 テスター製造という難しい仕事を、アドバンと安藤はどのようにこなしているのでしょうか?比較は簡単です。

  • 安藤の連結売上は2000/3で480億円、連結人員は1800人、生産性は、一人あたりの売上で2700万円です。
  • アドバンは、連結売上2000/3で1650億円、連結人員4600人、一人あたりの売上は3600万円です。
  • よって、仕事が速いのはアドバン、「並」が安藤です。
  • 仕事が速いアドバンは、いろいろなことにチャレンジする余力があります。仕事が「並」である安藤は、新しい分野に挑戦する気概に乏しいようです。
 株価評価の面では、30ー40%程度、アドバンが割高に買われてもよい気がします。つまり、仕事ができる人の評価は、できない人の評価よりも高いはずですから。
 安藤電気の限界利益率は40%程度です。これは悪い数字ではありません。しかし、固定費が高すぎます。固定費は300億円程度です。受注環境次第では、評価される可能性がありますが、こういう企業が生き残れるかどうかは、経営陣の意識改革にかかっています。
 僭越ですが、わたしが社長をやれば、収益は数年で数倍になるのでは、と思ってしまいました。残念ながら買う気にはなれません。

安藤のまとめ

  • 事業の魅力度は高い
  • スピードと意欲が会社にみなぎれば、化ける
  • 売上480億で固定費300億円は、経営の怠慢
  • 難しいことを無難にこなすだけでは、株式市場から評価されない
 取材を終えて安藤電気を出るとき、わたしが取材中、「固定費がどうしてこんなに高いのか」を繰り返し聞いたため、IRの人は「むっ」としていました。わたしは思わず「なまいきなことをいって、すみません」と頭を下げました。
よくなってほしいですね。経営が。(大原部長)
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