兼松(東8020) 2002/10/14更新

2002/10/08(火)

兼松(東8020) ☆☆☆☆☆☆

 債権者と債務者がしっかりと合意をし、その線にそって事業を再建しているときに、部外者がうるさくなり、気が付くと、債権者と債務者が合意した内容にケチをつける。

 小泉新内閣は、「平成の恐慌内閣」と市場でネーミングされ始めているが、民間の契約に対して政府が介入を誇示するワースト内閣といっていい。多くの再建途上の会社で、民間人が民間の力で過去にケリをつけて、一丸となって成果を着々と出しているというのに、「非効率なら即退場」というドグマに満ちた原則論・教条主義がすべてをぶちこわしつつある。

 北朝鮮を引き合いに出しては申し訳ないと思うが、彼らの革命思想と竹中大臣の「資本主義は非効率企業が退場するシステム」という原則論を無理矢理に強要しようとするところが、北朝鮮国家と共通するものがある。経済を効率という観点でのみ判断しようという危険な教条主義に陥っている。非効率なものが退場して競争力のある企業が力をもっとつけるという思想は、市場主義的に響くかもしれないが、市場では9月30日までは実際にそのような運営がなされていた。効率的な企業の株価は高く、非効率な企業の株価は安かった。市場のいうことをまったく聞かないのは政府の方である。政府はまったく実際に過去の政府の政策も、現在の政府の政策も、過度な累進課税と過度な法人税負担を強いるものであり、伝統的な福祉国家政策の粋を脱していない。非効率的な政府は、退場するのが当然だろう。一方で、資源の再配分を中央で非効率に行いながら、もう一方ではもう十分に効率的な市場機能を停止させてしまった。

 そもそも、市場は健全な社会の上にしかなりたたないものである。十分に効率的な企業だけが生き残るとするなら、商店街や町医者はいらないということになる。全国、津々浦々、すでにマクドナルドとセブンイレブンという町並みになっている。すでに非効率な企業は現実に淘汰されているし、効率的な企業は着実に勢力を伸ばしている。国が個別企業の競争力について、とやかくいうのは筋違いだろう。すでに効率的に資金を配分してきた市場が、政府による介入によって、萎縮し、恐怖におののき、完全に機能を停止している。税の非効率配分をやめる前に、市場の機能をストップさせると、残るのは非効率な政府部門だけとなり、一層、政府の役割を大きくさせ、財政出動を求めることになってしまうだろう。

 小泉恐慌内閣の問題点が市場で明らかになってきている。
 彼らの大きな勘違いは、不良債権処理を終了させれば、不況の問題が解決し、構造改革が進むという錯覚である。
 不良債権処理によって銀行は貸し手としての責任を果たしていないという。だからこそ、消費者金融やオリックスなどの勢力が伸びて銀行の役割を補完しているわけだ。
 大手銀行がしっかりするということは重要だが、もっと重要なのは、もうすでにしっかりとした金融機関は、外銀やその他の金融セクターとして存在しているということだ。
 国有化しても、問題が解決するとは思えない。銀行運営のソフトの問題なので、ソフトがない状態で誰が上手く経営できるのかということになる。
 かえって、格付けに応じた金利を単に設定するだけで、各企業においての金利負担が重大になり、恐慌がさらに悪化する可能性がある。

 政府は、経営を監視できない。経営を監視するのは、市場であって、市場の監視機能を損ねる発言を連発して、株価が下がるのは当たり前だろう。市場を十分に育ててこなかったことを棚にあげて、複雑怪奇な税制をよりわかりづらいものにしようとしている。

 日本がいま、苦しんでいるのは、退場すべき企業が退場しないからではない。ダイエーの店舗効率がいくら悪いといっても、害を与えるほど悪いとは思えない。いや、効率はどんどん改善している。店舗も変ってきている。なのにダイエーが倒産すれば、日本は強くなるのだろうか。構造問題など、日本にとって、さほど、重要ではない。ゼネコンが多すぎる。土建屋が多すぎる。だから、淘汰させるべきなのか。それでは、淘汰された後は、日本は強くなるのか。強くならない。日本の最重要課題は不良債権ではなくなっているのだ。

 日本の問題は、何度も言っているように、国際的に活躍している企業が日本を捨てているからだろう。日本が努力すれば誘致できた外資のほとんどはアジアにとられてしまった。規制を緩和した証券業界は、優秀な人員のほとんどが外資系に転職してしまった。人口の規制を緩和して、規制産業が衰退し、失業が増大し、代わりになる産業が誘致できない。緩和をしても、国内企業はやられっぱなしで、国際企業は国外に逃げていく。それは「悪い」規制緩和ではないのか。日本の国際競争力を強化する方向で政府が動いていない。出てくる案はすべて箸にも棒にもかからないチンケでわかりにくい小出し政策である。国際競争力を唱えるなら、法人税などの抜本的な引き下げは当然なのに、それは絶対にやらない。

 それは何が原因かといえば、やるべきことをやっていないのに、他人ばかりにやれやれと強要するからである。まず、公務員や役所の数は減っていない。役所の数は減ったが、人員は減っていない。それなのに、リストラを懸命にやった大手銀行を目の仇のように追い詰めるのか?せっかくITが発達しても、公的部門は民間企業のようにリストラができない。地方と中央政府は人員を削減しない。財源がないないといっているが、不要で過剰な役人を大量に雇っていて、なにも付加価値を生まないなら当たり前のことであろう。いらない橋や道路をつくり、コンピュータでできる膨大な情報処理をわざわざ人間にやらせて、その払いはみんな企業にツケ。ストックオプションなのに給与所得になるんじゃ、鎖国政策をとっているのと同じで、外人は絶対に日本にこない。

 なにごとも、正しい道を歩んでいれば、それは必ず、時間がかかる道であるはずである。物事に近道はない。
 債権者と債務者がお互いに考え抜き、合意し、その決められた道をしっかりと歩み、結果を出しつつあるときに、いったいどうしたらあんな横槍が入るのだろうか。
 それこそ政府の過大な干渉ではないのか。

 カントリーリスクという言葉があるが、民間のすでに決まっている契約を政府が取り上げるということは、共産国中国よりも日本はリスクが高いと外人は思っている。
 少なくとも民間の契約に政府が介入することで、日本は契約社会ではないということになってしまった。
 空売り規制下において、株が暴落ということは、市場は死んだといわざるをえない。こんどばかりは、頭にきた。

 兼松の方に昨日会い、話をうかがった。「わたしたちは3年前のことを忘れていません。この会社に残ると覚悟を決めたんだから、とにかくがんばるんだ」といっていた。
 伊藤忠のような変なタイミングの変なエクイティファイナンスは絶対にない。それは株主の合意になって経営者が強く意識するところになっている。
 兼松は、「お金がかからないビジネスこそいいビジネス」ということを発見した。それはお金がないから発見できたことでもある。
 だから、株主は安心してよい。お金がかからないからフリーキャッシュフローはいつもプラスである。
 おまけに、銀行との交渉で、短期の借入金はどんどん長期の負債に振り返られている。だから、お金があまっている。
 新しく始めたひとつひとつのビジネスはプランがよく練られている。
 残念だが、そういうビジネスプランのひとつひとつはとても小粒である。
 年商数億円というところからスタートするからだ。アイデアあふれるプランのいくつかを聞いたが、どれも初年度に黒字になるようなものばかりだ。
 文字通り、いいビジネスを見つけてくるような感覚だ。

 わたしは株主として兼松の方に申し上げている。「正しいことをしているんだから、時間がかかるのは当然ですよ。時間がかかることをあえて選択しているんだから、それは正しいんですよ」。
 収益力とは、経営者や従業員の意識の問題なんじゃないか。兼松の社長は、接待費は自腹。出張時の新幹線も奥さんがディスカウントティケットをこまめに買ってくるそうだ。
 清く、正しく、美しく。
 トップが公私混同をしない会社はいい会社になれる。☆は6つにした。
 いい会社への質的変貌を着々と遂げているからだ。

Normal To Good.Then Good To Great
(大原)

 

2001/12/19(火)

兼松(東8020) ☆☆☆☆☆

 フォロー。

倉地社長の考えを大原が代弁する。

【兼松 過去2年の成果】

●商社の問題点を整理し、従業員に認識させたこと。問題点は3つ。「利益率が低すぎる」「借金多すぎる」「縦割り組織の弊害 前はどこにどれだけ借金があるのかわからなかった」 事業や会社はなんのために存在しているのか。社長の口癖は「レゾン・デートル」。目安としては全社経常利益率8%ないものは社会的ニーズがないものとして判断。

 過剰債務。8000億円を4000億に半減したが、まだ多い。年間収益の14倍。(10倍以下にする)。そして、キャッシュフロー経営へ転換した。

 縦割り組織弊害。本体2000人を700人とし風通しはよくなった。役員は10人。しかし、3人は社外。組織はフラット。課をビジネス単位としている。年2回、課長と話し合い即決即断。新規事業の提案も積極的に議論され、活気が戻りつつある。

 決算発表は、全社員の希望者に夜行い、活発なQ/Aの会がある。社長は隠さない。「どの部門が損をしているのか」それに対してもすべて数字で説明する。損益は部門部門でコンピューターのアウトプットデーターはみんな知っている。

 海外の合弁や連結子会社の状況をいまチェックポイントが完成している。
 直接償却を行い、不良債権はバルクセールし、売却した。2次損は出ない。含み損はCPAにすべて査定してもらった。それでもわからないものもあったが、過去の責任は問わないので全部テーブルの上に出させた。100万円単位の小さいものが出てきた。CPA、第3者にチェックしてもらったのは有効だった。

 短期決戦を心がけた。病んでいる部分は切ったが、残す部分は本当に発展性があるのか分析する余裕がなかったが、銀行の調査部に事業分析をしてもらった。顧客はサポートしてくれた。短期決戦がよかった。集中的にやった。本気でやった。

 いま、不況となり、悩ましいが、スタートが早かった分、やれやれといった感じだ。CPAやロイヤーをかなり動員した結果だ。

【今期業績 計画10%上回る収益実績とバランスシートの改善】

●減収増益を達成。前年同期比も半期で改善している。
●借金返済は順調。9月で総借り入れ4900億円。いま保有している現金は900億円以上。ネットの負債は4000億を切ってきた。
●全取引銀行に向こう3年間残高維持契約が残っていたが、おかげさまで、破綻懸念先から正常取引に切り替わった。16年3月までの期間、グローバル、子会社含めてファシリティーを含めて借り入れ枠を確保している。資金のアベイラビリティを問題ない。この3月に向けてさらに借金は返済できる。担保余力も1000億円ある。いざとなればこの1000億円も割り引ける。預金も900億あるのでこれは多すぎるぐらいもっている。

【不況の影響は受けている。売上は落ちている】

 売上総利益率が8%台。利益額、営業利益額が伸びていない。経常利益は金融収支改善で伸びている。不況の影響は受けている。
 下期以降は、金融収支改善、子会社関連会社のコストカットで、増益を目指す。
 今後3年のフリーキャッシュフローは1350億円から1600億円を見込んでいる。

【通期見通し】

●売上は計画より落ちた
●販売管理費や金融収支は計画以上に改善
●期初計画は最終利益は変更しない

 社員たちは訴えた。「ゴルフワールドカップのアメリカチームは、4ホールを残して首位に遠い位置にいて、普通だったらあきらめるところをあきらめなかった。優勝を最後まで狙っていった。バーディ、バーディときて、最後のホールはイーグルだった。兼松の業績計画の達成は変更しないでくれ。3月31日まであきらめずにがんばり、絶対達成したい」

 どうしてもやらねばならないのは、今期繰越欠損金を必ず消す。復配を目指す。

【商社の役割】

 たとえば、日本の自動車メーカーにマニュアルクラッチをつくっている優秀な名古屋の会社を見つけた。GEに売り込んだら、プジョーがとれ、ルノーなどもとれそうだ。
 兼松には工場を見て原価計算ができる人間がいる。フランス語もドイツ語も話せる人材もいる。兼松は技術がわかる商社マンだ。

 兼松が中心となってモジュール化できる部品も多い。いい技術は日本にある。英語ができて技術がわかる。こういう人間がいる。それが商社の役割だ。

【今後の戦略】

 光通信関連のモジュール化に成功するなど新分野開花が相次いでいる。
 バイオ事業は評価が非常に高い。
 3億円程度の最終利益を狙える事業が50ぐらいあればいい。
 イチロー選手型で、スピードと小回りでニッチを狙う。単打の積み上げを狙う。

【弱み】

●自己資本がない

【保有証券】

●保有株戻らないが売る可能性ある。20億円の損の中で売れる分は積極的に売る。上場有価証券252億円を減らしていく。こんな保有株のために損が出るのは従業員に申し訳がない。そういう考えがよいのか悪いのか。みんなから意見を求めている。

【コーポレートガバナーとIR】

●IRをやりながら、意見交換を投資家としてきた。みなさんの意見は、非常に役に立っている。
●経費管理がまだまだ甘いところがある。従業員の経費意識を高めている。
●関係会社にまだ改善余地大きい。モニタリングをしっかりしていく。
●経費カットだけではだめなのは重々承知している。

 

☆☆☆☆大原の経営者採点☆☆☆☆

【倉地社長を経営者として大原が採点すると】

●話が非常に明快でわかりやすい
●公正
●事業のコア、フォーカスがはっきりしている
●短期的な数値目標がある
●商社のあり方を再定義した理念とビジョンがある
●フラットの組織を実現している
●ビジネスの形がはっきりしている。ファブレス志向。用途開発に特化
●技術者を大切にする
●つきあいで出資はしない。やるならパートナーなら20%は出資。それか、まったく出資しないこと
●従業員が面白く仕事をしている
●しかし厳しい人。甘さを許さない

ということで倉地さん、経営者として100点満点で120点です。

 

☆☆☆クレイ フィンレイのあやこさん 兼松に入社決定!☆☆☆

 わたしたちは、インターンシップで学生を受け入れています。ファイル整理やノート取りなど、アナリストの補助業務をしていただいています。理工系でバイオを専攻している、あやこさんがわが社にきたのは2年半前のことでした。アルバイトとしては異例の昇給を2回しました。あやこさんは仕事は熱心なだけではない。ファイリングもアナリストの意見をよく取り入れて工夫を随所に取り入れます。頼んだことは夜を徹してでもやってくれます。学業もすごいパワーです。卒業研究では研究室に泊り込みます。まだ誰も見つけてない酵母を探しに南の島へ探検に出かけていきます。この若さで、もうすでに自分が一生かけてやりたいことを見つけている。年をとっても、なにをやったらわからない人たちが多いのに、すばらしいことです。

 そんな彼女が就職活動期間、わたしたちの意見も参考にしながら、自分で選んだ会社が兼松でした。会社説明会や内定式では前任のIRご担当の和田さんから声をかけられ、喜んでいました。兼松のライフサイエンスを下支えする貴重な戦力となると思います。彼女は一般職を敢えて選択しました。実力さえあれば、大きな仕事を任せられると信じているからです。とにかく実力をつけることが彼女の今の目標です。自分の好きな会社に優秀な学生が入っていくのはとてもうれしいものですね。(大原)

 

2001/05/25(金)

兼松(東8020) ☆☆☆☆☆

 今後、兼松の株価はじり高予想です。

【根拠】
1)ハイテク不況の様相が強まる中で、商社は相対的魅力がある
2)バリエーションがまだまだ低い
(大原)

 

2001/05/17(木)

兼松(東8020) ☆☆☆☆☆

  急騰時の対応

3月21日億近で強く買いを薦めた。

そして本日、とうとう日商岩井の時価総額を順当に抜き去った。
まだ、ようやくバリエーションで、商社株として認知されたに過ぎない。

表1:総合商社との比較 
 
時価総額/営業利益
時価総額/純利益
兼松
5倍
20倍
商事
20倍
18倍
住商
9倍
21倍

短期的なコレクションは避けられないだろうが、3年程度の中期タームで見た場合、この表からわかるのは、兼松はまだ評価の余地を残しているということ。
借金返済が劇的に進む。だから、営業利益で評価したい。

今後の議論は、リストラを越えて、一歩踏み込んだものになる。
ひとつは、ライフサイエンス事業などの個々の事業の質を厳しく見極める段階になった。各事業の競争力を吟味しなければならない。
もうひとつ、ポスト和田、ポスト倉地を考えなければならない。経営者が去るときに、規律ある柔軟な自律組織が維持できるかどうか。

自分でとことん付き合うと決めたのだから、今後、会社とじっくりと対話していくつもりだ。
(大原)

 

 

2001/04/16(月)

兼松(東8020) ☆☆☆☆☆

 【16日説明会内容】

説明会内容を簡単に紹介する。

Q:新計画の達成の自信は?
A:100%確信をもって達成できる。3年ではなく、2年で達成する。

Q:売上の増加を見込んでいるか?
A:全く見込んでいない。含み益の活用さえ、織り込んでいない。どう転んでも利益目標は、達成する。まだ、不採算事業は残っている。売上は減っても利益を増やしたい。

Q:損益管理はどんなメソッドを用いているのか。(コンサルティングなどを雇っているのか)。
A:商社の会計は、アマチュアレベルだ(ワンパターンに陥る)。損益管理のメソッドを、もったいぶって商社は使うべきではない。すべての事業で採算を求める。われわれは、7勝3敗ではいけない。10戦全勝でないと、生き残れない。勝つか負けるかではなく、生きるか死ぬかだ。不採算事業はすべて撤退するだけではない。不採算になりそうな芽を早期  に摘む。

Q:どうやって負債を削減するのか?
A:基本的にROE重視の毎年の利益のフローから返していく。コストカットの徹底。無駄の排除で返済する。多少残っている遊休資産も処理する。

Q:他の商社のように、ベンチャー投資はやらないのか?
A:リスクが高すぎる。やらない。会社の技術力を判断したうえ、共同で事業を展開していく。投資は、メーカとの共同開発に軸足を移す。兼松の社員がしっかりと技術が理解できる分野に絞る。社員の見識と技術力をさらに磨いていく。自分がわからないものには投資しないし、してはいけない。技術がわかれば、技術営業の面、技術コンサル、戦略、市場調査、製造装置の共同開発などをお手伝いする。日本には、中小企業でも技術力がある会社が多くあり、そのような会社は、マーケティング能力に劣る場合もある。兼松がお手伝いすることで、彼らの高い技術を世に問い、製品化を手助けする。

Q:それでは、御社に投資するリスクはなにか?
A:2つある。1つは、大地震のような天災だ。もう1つは、社員の引き抜きだ。想像を絶するリストラのあと、残ってくれたのは、やりがいをもって事業を推進してくれる若手だった。年棒は30%下がった。しかし、好きなことができる喜び、事業が面白いからという理由だけで残ってくれた。10倍の年棒で引き抜かれるかもしれない。若手に受け入れられるよう、給料を完全業績連動にした。彼らに報いるために、旧計画を前倒しで完了する必要があった。旧計画を前倒しで達成したことにより、彼らの職場環境を改善し、大きく業績に貢献したものにはそれなりに報いたい。

【配布資料より】
他の商社とくらべて、ROAなどの指標の優位を説いていた。

【感想】
 うーん。他の商社との比較は意味があるのか。比較対象として、専門商社、事業会社のなかのファブレス企業をイメージさせるべきではないか。
 2年後の説明会では、金型商社ミスミやファブレスのキーエンスなどを比較の対象として選んではどうか?

 個人投資家のみなさま、技術も人材も流出した3流商社、兼松をこれほどまでに、よく評価していただきました。
 がんばる社員、がんばる経営者が正しく評価されるということは、日本の市場にとって非常に意義のあることです。市場に関わるものの一人として、うれしく思います。

 ここからは、機関投資家の出番です。ようやく時価総額1000億円を突破しました。98年3月27日以来、およそ3年1ヶ月ぶりの1000億円台です。機関投資家の中には、投資対象としてこれから兼松を考えるという方々が出てくるでしょう。

 たとえば、ミスミ(9962)。営業利益70億円程度で、時価総額1500億円。兼松は営業利益300億円視野だが、時価総額1000億円。ミスミの経営はすばらしい。従来の商社のあり方を否定した。マーケットのニーズを吸い上げ、決して高くない給料でも社員はやりがいを感じている。「やりがい」は、重要なファクターである。

 実際、わたしも運用が好きでやっている。給料の少なくない部分が、寄付や人材の育成に消えていくが、それでも構わない。両津さんも、リサーチができれば、年収はいくらでも構わないといってくれている。

 わたしは、休日は保育園の父母会の会長をしている。いろいろな父母がいるので面白い。ちょっとした合間に、億近のボランティア。ゼミ募集から4ヶ月経った。ボランティアだが、楽しく参加させて頂いている。

 仕事は、自分を実現していくプロセスであって、会社は人生を楽しむためのコミュニティーの場である。兼松は、そうした会社になってほしい。

 たとえば、ミスミは営業利益が75億円でも、その内容は、営業利益200−300億円の兼松を圧倒する。また、ミスミの自己資本比率70%以上というのは、商社として脅威的だ。

 通常、商社や建設会社は借金で商売をする。納期が長いからだ。売上=借金といってもよい。顧客のためにモノを買って、顧客の望むとき、望むところへ納める。顧客の代金は後払いだ。だから、売上を増やしていく局面では、借金は減らない。
 売上500億円のミスミが時価総額1500億円というのは、市場がなした正当な評価である。その経営、その事業内容、社員の柔軟性が高い価値を生んでいる。

 結局、世の中を変えるのは、政治家でもお金持ちでもない。世の中をよくするのは、わたしたち社会人一人一人の知恵にかかっている。
 会社は、社員1人1人が知恵を出し合っていかなければ、よくならない。社会のニーズを見出すことは、比較的簡単だ。しかし、各自が知恵を出しあう組織を構築することは容易でない。大体が自己で考える訓練が足りないからだ。
 そのうえ、知恵を新ビジネスに結びつけることは、より困難だ。よいビジネスを育むことは、社会のニーズを継続的に解決していく意義深い仕事である。ボランティアには、継続的なパワーが足りない。ところが、ビジネスは社会推進のエンジンであり、パワーだ。
 新ビジネスを次々を生み出すミスミは、自らの活動を模倣するものが出てくることを厭わない。みんなが真似をするようなビジネスを最初に起こす。これほど、意義深いことはない。なぜなら、自らが歴史をつくった人になれるのだから。歴史をつくったものだけが得られる満足感。それが、本来の会社設立の目的ではないか。

 模倣会社に過ぎなかった兼松が模倣をやめた。模倣をやめた後、どうなるのか。イノベータになれるかどうか。
 倉地社長の真の狙いはそこにある。だから、ROEを重視し、借金を返すといっているのである。どうしたら借金を返せるのか。答えはひとつ。短納期ビジネスに徹することだ。ならば、どうしたら納期を劇的に短縮できるのか。自らファブレスのメーカとなり、ファブレスの思考をすることだ。それが出来るかどうかは、社員1人1人にかかっている。社員をやる気にさせる経営がいかに重要かがわかろう。

会社に対して文句ばかりいっている諸君、建設的な意見を言っても取り上げられないと嘆いているあなた。もしそうなら、あなたのプランを市場に問い掛けなさい。具体的なプランをもって、投資家の門をたたきなさい。
ダメ上司と一緒に倒産や左遷を待つのは寂しい。リスクをとって、行動すべきである。(大原)

 

2001/04/12(木)

兼松(東8020) ☆☆☆☆☆

 「志のある新計画」(フォロー)

 先日、億近で熱く紹介させていただいた。株価は180円から316円へと上昇。急騰した過程で、多くの方は降りたものと思っている。
 本日、引け後に今期から3年間(2002/3〜2004/3)の新中期計画が発表された。
 明日(4/13)午後4時より説明会で倉地社長から投資家へのプレゼンがある予定だ。

【日本のために】

 新計画には、全社員が一丸となれる理念が記されている。
 「金融、投資など安易に高リスクの取引を追わない。本来の商社機能を徹底して追及する。微力ながら日本経済の活性化に貢献する。この日本経済に貢献するという志を全社員が共有し、この志を実現することを本計画の基本理念とする」。ぐっときてしまう文句である。

 そもそも、日本の銀行や商社や生保は、どうしてこれほどだめになってしまったのか。
 かつて銀行に入る人々は、「銀行は不況になってもつぶれない。安泰だ」と言っていた。
大手企業に入った方々も多かれそのような安定志向があったと思う。隔離されたユートピアを信じたくなる心理は幼児と同じだ。
 わたしは、このような社会の変化に無関心な人々が日本をだめにしていると思っている。
 自分のところだけつぶれなければ、日本はどうなってもいいのか? みんなが困っているとき、たとえば大不況がきたとき、自分の会社だけはつぶれないから、他の人と違って困らないはず。だから、かまわないというのか?
 有名大学を出た自分たちのような人間は、生活には一生困ることがあってはならない。なぜなら、自分は受験競争に勝ち抜いた選ばれた人種だからか?
 受験に勝利すれば、努力のわりに法外に高い年収も正当化できるというのか?
 少し英語が出来るからといって、海外を飛び回り、世界中のベンチャーにとんでもない高値で出資をして「投資家」気取りか?

現実をみよ。

 人は生まれ、年をとり、時代は変わる。
 自らが努力も変化もしないで、国民一人一人に大量の税金投入をさせ、とんでもない迷惑をかけたのはどっちだ?
 ここまで競争力のない国にしたのはどっちだ。不況の原因をつくったのは、中小企業ではなく、金融・不動産・商社のエリートたちではないのか?
 どうして、みんなへ詫びて、心を入れ替えると言えないのか?

 「日本のために貢献する」という気概があれば、「安定」「横並び」という思想にはならない。全社員が、それぞれの立場で、志を持つ。具体的な行動を示し、社会のみんなに貢献させていただく。そういう基本的な考え方が出来なければならない。兼松を支持するのは、会社が正式にこれまでのあり方を否定し、社会へ貢献させてくれと私たちに訴えてくれるだ。

 計画には、こんな文言がある。「これまでご迷惑をおかけしてきた株主の皆様への早期ご恩返しを実現する」。

 企業家のみなさま、株主はこういう真摯な姿勢を待っているのである。壮大なプランも大風呂敷もいらない。そんなものよりも、もっと重要なものがある。それは、過信のない素直な思いであり、過ちを認める態度。そして、努力のプロセスである。努力は必ず報われる。
 本当に大切な情報とは、こういう理念や反省である。市場は鬼ではない。わたしのようなものばかりが集まって運用しているところが市場である。情報とは本来、損得ではない。「情けに報いる」と書くように。

【努力を知っている】

 本体1938人の人員は699人程度になり、実に1269人の人員が削減された。販売管理費は2年前の383億円が2001/3は135億円となり、なんと248億円が削減された。
 連結会社は2年前の230社を133社にした。
 売上を1兆円以上減らし、1兆2000億円とした。その結果、有価証券売却益を除く経常損益は、159億の赤字が100億円を超える黒字となり、250億円以上の改善を達成した。
 8000億円近くあった負債をわずか2年で4500億円まで削減した。

【今後の計画】

 さらに、これから毎年500億円の返済を目指し、最終的には、完済をめざすという。
 連結対象会社のコストを対粗利でさらに80億円程度削減するという。今後は、連結経常利益230億円を目指す。現状総資産7700億円を6200億円へ減らす。自己資本を110億から340−410億円へ増強する。EBITDAを最低320億円にする。

 ビジネスは、証券投資からの決別。
 わけもわからずバイオ株にお金を突っ込み、サンリオみたいに業績は株価に聞いてくれという無責任なことはしない。
 信用リスクを取る金貸しもやらない。

 計画は訴える。「わが国には、大きくなくても、高い技術力、競争力を有する数多い企業がある。当社は、高い専門知識を活かし、これらの企業の開発部門と共同で、技術性、競争力の高い製品・商品の用途・市場開拓、海外の先端技術導入を推進する」。
 曇りがない透明なビジネス観である。

 これほど正直に生きていければ、社員も幸せだろう。
 メーカーと共同開発できる自力をさらにつけてもらいたいものである。

 ビジネスとして期待できるものは、フェルール、マイクロレンズなどの光部品、シンガポールや中国への半導体工場プロジェクト、電子部門では関連3社統合による収益力の強化(以上、IT関係)、非遺伝子組み替え食品、機能性食品の開発・輸入(以上食品関連)、欧米一流メーカとの100以上の医薬中間体の開発(バイオ)、フォルクス、ルノー、オペル、プジョなどとの自動車部品高級鋳鍛造品(鉄鋼部門)など。

 途中でこの株を降りた人も多いだろう。
 会社が本当に信じられるなら、売値より高くても、買い直すべきだろう。

 2001/3純利益は、従来予想の170億円を上回った模様。経常利益は110億円を下回らない(倉知)としている。大原予想で2−3年後EPS50円。目標株価をPER15倍の750円とする。(大原)


2001/03/21(水)

兼松(東8020) ☆☆☆☆☆

 【日本が復活するとき 兼松(8020)の挑戦】

 年初から34%上昇している。3月1日スパークス投資顧問が30億円第三者割当を行なっている。3月1日には構造改革プランが順調に推移していると倉知社長が記者会見した。プライベートエクイティの是非は一先ず置いておいて、社長の意気込みが十分伝わる内容だったようだ。機関投資家の出資は、経営によい意味での緊張感を与えるだろう。

 先日、社長にお会いして感動した。日本企業が再生するためのケーススタディとして興味深くお話を伺った。この復活劇、兼松経営陣と社員の健闘は、日本の産業史に名に残すだろう。それくらい意義深いことである、と思った。

 株式価値の総額である時価総額は510億円(3月19日)であるが、営業利益は大原予想で来期300億円。営業利益のわずか1.7倍の時価総額というのは、まだまだ激安であろう。そう、通常は少なくとも10倍程度の倍率であってもおかしくない。そう、株価は1000円であってもおかしくないのだ。なぜ、こんなに安いのか。それは、脆すぎる財務内容が原因だ。

 営業利益の1/3が利払いに消えてしまうという有利子負債の多さ。倒産リスクを加味すれば、現状の株価も適性だという見方が一方でできる。
 その指標とはEV/EBITDA倍率だ。兼松の場合、現状の純有利子負債(=有利子負債から現金と短気保有証券を差っ引いたもの)は4820億円だ。これに時価総額510億円を加えた企業価値の総額(EV)は、5330億円だ。一方でその返済原資となる減価償却前営業利益は来期大原予想で360億円。両者の比率、5330億円を360億円で割ったもの、14.8倍である。割安銘柄のEV/EBITDA倍率は10倍以下が目安だ。15倍近い倍率に躊躇する投資家も多かろう。

 たとえば、純有利子負債とEBITDAとの比率を商社セクターで比べてみる。兼松の場合、13.4倍。商社8社平均は25倍程度だ。商社という業況を考慮すれば、この数字は十分に健闘しているといえる。さらに、たとえば、(1)その借金残高が短期間で大きく減少する見通しが立っていたとしたらどうだろうか。また、(2)利益の絶対額がさらに回復するとしたら? そして、(3)会社の質、従業員の士気が以前とは違ったものになっていたらどうだろうか?

 これらの3つのアスペクトに対して、すべて確信を持ってイエス言い切れるとき、株価は大化けするだろう。たとえば、ネットの負債がゼロになった状態で、高収益事業に支えられ利益率が5%以上になるとする。経営者や従業員の資質に対して高い世間一般が高い評価を下したとする。

 そのときのイメージは、5年で営業利益400〜500億円、EPSは80円。PER20倍。となると株価は中長期で1600円である。

 だが、そうなる確率が問題である。こんな皮算用は、通常、単なる夢物語である。横並び体質から脱却できない下位商社である兼松になにができるのか?EPS80円などといえば、多くの投資家は、「夢想」と一蹴するだろう。

 一般的に、日本企業の経営は、株主から見て、手ぬるい場合が多い。折角、光る事業を保有していても、不採算事業がその光を帳消しにしてしまう場合が多い。投資家は投資したくても投資できないというジレンマを慢性的に抱えている。兼松はそんな会社の代表格だった。

 不採算事業をやめてほしい。たとえ、売上を落としてもいい。それで利益額が増加するのであれば、どんどん不採算事業は切ってほしい。グロー・ツウ・シュリンクではなく、シュリンク・ツウ・グローをしてもらいたい。それが株主の痛切な長年の願いだった。

 一体不採算事業はいくつあるのか? なぜやめられないのか? ごたくはいらない。できないなら、用はない。ただ、市場から消えてくれればよいのである。

 まさに、総合商社は消えてなくなる途上にあるように見える。なぜ、1兆円の売上規模を誇る企業の時価総額が500億円なのか。時価総額に対する売上の比率をPSR(プライス・ツウ・セールス・レシオ)という。兼松の場合、PSRは0.04倍である。成熟産業である造船重機産業の代表格、三菱重工(7011)のPSRは0.5倍。

 ちなみに、大きく株価が下落しているヤフー(4689)の場合、PSRは来期ベースで27倍である。実に、PSRで見た場合、兼松はヤフーの640分の1でしか評価されていないことになる。商社からメーカに転身した東京エレクトロン(8035)の場合、PSRは2倍以上である。20年前、東京エレクと兼松は製造装置市場で良きライバルだった。なにが、兼松と東京エレクを分けたのか?
 三井物産(8031)のPSR0.07倍、住友商事(8053)0.08倍、三菱商事は0.09倍である。商社なんかなくなったっていい。市場はそう言っているである。そのつぶやきが経営者に届いているのか。市場は毎日そんなメッセージを送りつづけている。

 不可能だと思われる改革を成し遂げようと挑戦する集団を応援したいのは人情だろう。高い志を持った経営者には、なんとかがんばってほしいと願う。それは、儲かるか儲からないかという思考から、少しずれてしまうかもしれない。しかし、がんばっている人には成功してほしいという思うのは当然のことであろう。まして、その会社の現状の評価が極めて低い場合、債権者や株主のために激闘してくれている経営者や従業員に対して、株価を安値で放置することは、投資家自らの無能さの証明のようなものだ。結果を出す能力がある企業を安値で放置するようなことは、投資家として許されない。それでは投資家失格である。

 一人の男が日本の代表する企業を変えた。日産のゴーンだ。痛みを伴った改革を成し遂げた。そして、利益は急回復した。結果的に従業員のやる気も引き出した。それを見てくやしく思っている男がいた。「なぜ、日本人が日本の会社を再生できないのか?情けないことだ」と倉知は言った。

 東京三菱から派遣された倉知、和田のコンビは、ビジネスマンとしてのプライドをかけて2年前兼松に乗り込んだ。「大手商社なら勝つか負けるが問題だろう、しかし、兼松は生きるか死ぬかだ。再建失敗=死。今、わずかに残された自己資本は50数億円だ。処方箋は外科手術。悪いところはすべて切り取らなければならない。兼松出身では、鬼になれないだろう。外部から乗り込む私にしか外科手術はできないはずだ」(倉知)。

 一緒に来てくれる者を呼びかけた。和田が手を上げた。厳しさでは社長以上といわれている。一切の例外を認めない厳しさ。

 社員にはわだかまりもあった。しかし、「社員にとって、たとえどんなに厳しくても、倒産して路頭に迷うよりは、兼松が復活して世の中から自分の仕事の付加価値を認められるほうが幸せのはず」(倉知)。

 売上競争、横並び意識。商社が互いに取扱高額を競った果てに残されたものは、無数の低採算事業と膨大な借金だった。そして、横並びを意識して、決算対策を繰り返していた。粉飾である。結果として財務内容が、ますます脆弱になっていく。あり地獄だ。 たとえば、ディリバティブ取引で利益の出ている取引だけを利益計上した。不良債権は隠そうとした。社員の士気は低下した。「この会社はやばい」。優秀な人材は流出し始めた。

 99年5月減資を実施。自己資本は410億円から70億円となった。格付け機関は、格付けを投資不適格とした。(ムーディーズB1へ格下げ)
 希望退職を募った。99年9月、総数525名が退職していった。単体2000名だった社員は一年で700人になった(単体)。想像を絶するリストラだったろう。後がなくなった。膿は徹底的に出すしかない、そう思った。

 一方で、しっかりとビジョンを語りかけた。売上重視から利益重視への転換、効率化、成長性、採算性の観点からの取り組み、しっかりと事業の収益性を監視する委員会の設置、借金や経費をさらに見直すために、コストコントロールの徹底が図られた。

 全社一丸となって、2002年3月期の連結経常利益150億円を目指すと誓った。有利子負債は3年で3700億円返済するつもりだった。関連会社は240から70まで減らす計画を策定していた。倉知は、決められた予算を守れない事業はすべて清算した。「やめるときは、禍根を残してはだめだ。不動産はやめるが、マンションだけは続けるというやりかたでは、必ず将来おかしくなる。やめるべきものはきっぱりとやめなければならない。中途半端に継続した事業で将来わずか1000万円でも赤字が出ることは許されない。兼松には、赤字を許容できる体力は残っていない」(倉知)

 金融機関は1500億円の債務を放棄した。「外科手術をしたんだ。債権放棄という輸血が必要だった」(倉知)。

 金融機関は、兼松をつぶして借金が戻らなくなる事態を心配していた。たとえ、1500億円を放棄しても、残りの債権が戻ってきてくれるなら、という腹積もりだった。借金は99年3月期7900億円残っていた。これを債権者に返すために、必要最低限の燃料だけつんで片道キップできた。「骨を埋める覚悟だった」(倉知)社員は半信半疑だった。誇りを失っていた。経営を明朗に開かれたものにする必要があった。

 経営説明会で、ある社員がいった。「不良債権を処理したというが、うそではないか。この部には、120億円の不良債権がのこっているはずです。」その場で、財務担当者が答えた、「引き当ては終了しています」。社員は、会社がまだ、信じられなかった。

 自分が誇りをもってできる仕事とはなにか。社長は問いかけた。夜は社員と飲みにでかけた。営業にも同行した。議論が白熱した。「レゾンデートル」。社長が好んで問いかけた言葉だった。「なんのために存在するのか、君のやっているこの仕事の存在意義。存在意義があれば、それなりの付加価値、つまり利益が顧客から与えられるはずだ。顧客にどんな点を認めてもらっているのか?単なる慣習や業界序列で、つきあってもらっているだけの顧客なら、いらない」(倉知)。

 社員は驚いた。倉知は普通鋼の取り引きをあっさりとやめた。毎月、高炉メーカから割当が来る。まさに序列の世界だった。担当者はかえって気が晴れた。高炉とのつきあいがなくなる。その代わり、もっとエキサイティングなことをやってみたいと思った。自らのレゾンデートルを求めた。13クロムや鋳鍛造品などの付加価値品に特化することになった。99年9月中間期に4億円の赤字を経常した鉄鋼プラント事業は、2000年9月中間期に23億円の黒字を記録した。事業部の社員の士気が戻った。

 化学事業は、汎用樹脂の物流をやめ、ライフサイエンスに特化した。医薬中間体や健康食品、そして機能性プラスティックなどに注力した。社員はメーカとの研究開発に張り切っていた。長らく物流中心の商社では、技術者や理系出身者は傍流だった。技術がわかる人間が大きく開花していった。99年9月、2億円の赤字だったライフサイエンス事業は、11億円の黒字に転換を果たした。

 結局、不退転の決意からわずか1年半で兼松の連結営業利益は99年9月中間時の22億円から97億円と急改善した。

 大胆なリストラでもはや部長はいなくなった。課長一人一人に重大な決済権が与えられた。

 一円の損も許されない。経費は全社で3分の1になった。「1円でも損をだしたら、その部は消滅する。清算するという覚悟が社員にも芽生えてきた。」

 経営戦略説明会を社員に4回開いた。内容が同じものを4回も開くことは異例であろう。それだけ、経営陣は必至だった。社員は4回のうち、都合のよい回に出席すればよかった。社員からの質問も積極的に受け付けた。そこで倉知や和田は会社のビジョンを訴えた。「兼松は復活する」。社員と経営者との間にコンセンサスが形成されていった。

 2年がたった。2001年3月期の経常利益は前記比4倍となる見込みだ。借入金は99年3月期の7910億が2000年9月には4820億円となった。有利子負債はネットベースでゼロにすると社員に号令をかけている。

 社員はメーカとの研究開発を推進した。兼松に残った理学部工学部出身者たちが、「これをやらせてくれ」と社長に直談判にくるようになった。

 連結子会社、関連会社は240あったが、倉知はこれを174にまで減らした。今後、120まで減らす予定だ。親会社でできたことをこんどは子会社でやるつもりだ。

 2001年の年明け、関連会社の社長から経費削減のプランを徴収した。まだ削れる経費が50億円以上もあった。この50億円は債権者や株主のために返すといった。

 投資家たちは応援した。すでに208人の裕福な個人から、激励と資金援助の申し出があった。スパークスの出資もその流れの一貫だった。「まだまだ。今度は外国の機関投資家にも認められるようにがんばりたい」(倉知)

 顧客も兼松を応援した。森永のアロエヨーグルト、400億円の取扱。100%のシェアだ。森永の社長がいった。アロエの次を一緒に探しましょう。森永・兼松共同チームは、いま、東欧を回る毎日である。

 社員もがんばった。工学部出身者たちは、光関連部材など高成長分野に注力した。シンガポールから25億円フェルールの受注に成功した。しかし、部品メーカの生産が追いつかず、途方にくれていた。社長がメーカを訪れ頭を下げた。先方の社長がいった。「兼松に分けてやれ」。

 兼松の社員のマインドが変わった。特許をとろうという気運がちらほら出てきた。

 ここに面白い数字がある。過去5年間の特許出願数だ。本体での出願の比較だが、三菱商事219件、三井物産137件、住友商事62件となっている。兼松は555件だ。売上規模で10分の1にすぎない兼松の知的財産は、大手商社を数倍規模で上回っている。毎年、社員6人に1人が特許明細書を書いていることになる。「まだ、特許戦略はないに等しい。今後の課題である。今は、なんだか面白そうだから、書いてみようという段階」(和田)

 この結果を見て、わたしは確信をもった。完全に兼松社員のマインドは変わったといってよい。社長からのレゾンデートルの問いかけに社員が出した答えのひとつはこの特許だったのではないか。会社から特許を奨励したことはない。自発的な社員の行動だった。

 わたしが疑問に思っているのは、優秀なはずの商社マンや銀行マンがなぜ特許というものに対してこれほど疎いのだろうかということである。

 住友銀行の特許は過去5年で21件であった(いずれも、特許庁HPでの検索結果より)。担保をとった金貸しや物流の鞘抜きで生きていける時代は終わっている。

 兼松の特許は、地に足のつかないビジネス特許ではない。すべての特許の土台は顧客と二人三脚だ。エプソンとのハンドラー事業、ファイザーとの中間体事業、なんとシリコンバレーには常時20人が最新の技術動向を見極めている。兼松は単なる御用聞きから脱却した。

 わたしの指摘に対して和田が付け加えた。
「商社は、物流中心の事業展開だった。ソニーや松下が町工場だったときは、仕事が十分あった。昔は、ソニーは生産に夢中で、それ以外のことをする余裕も暇もなく、人材もいなかった。いま、ソニーは商社を必要としていない。それなのに商社は売上競争を繰り広げた。物流で食っていけないと感じたとき、投資やバンキングに多角化していった。そのどれも上手くいっているとはいえない。兼松は投資やバンキングはもうやめたんだ。そうじゃない。世の中から認めてもらうためには、メーカと一緒に考え行動しなければならない。5年、10年かかってもいい。共同でなにか意義のあることを創造していくんだ。それ以外に商社の生きる道はない。ベンチャー投資ではなく、ベンチャーの気概をもって、互いに知恵を出し合っていかなければならない。投資とは本来そういうことなんじゃないか?」

和田は続けた。
「いわば、兼松はようやく恐竜から人間に変わったんだ。物産も商事もこわくない。かれらは恐竜だ。人間は弱く、裸だが、共同でちからをあわせればマンモスだった倒すことができる。兼松は幸いにも「火」を発見した。いつか、わたしは銀行に戻るかもしれない。日本の銀行だって、今は恐竜になってしまった。銀行にもどって、ここでやったことをやらなければならない」(和田)。

 ミーティングを終える前、社長に一言苦言を呈した。第3者割当の件だ。
「どの投資家も平等に扱ってほしい。市場とはそういうものなんですよ。わたしは御社に出資してもいいと思う。しかし、わたしはあえて市場で買うことを選択します。それは、投資家はわたしだけでなく、わたしだけが抜け駆けするわけにはいかないからです。誰かが抜け駆けできる市場は未熟な市場です。これからは、投資家のひとりひとりに思いをはせて下さい」
倉知社長は「本来そうあるべきなんでしょうね。」と納得してくれた。

 わずか1時間半のミーティングだった。しかし、わたしは爽快な気分であった。サラリーマン社長にはできないはずのことが、倉知社長には出来たという事実。
「再建のインセンティブは、私のプライドです」(倉知、和田)。

社員は完全な業績連動給になっている。ストックオプションは倉知にも和田にもないのだ。
「自分の利益なんか考えて、やっていられない。まず、債権者、まず、既存の株主に報いなければならない。それが終わったら、社員に報いなければならない。次の社長は兼松から出さなければならない。それがすべて滞りなく完了する責務。それがわたしのインセンティブなんです」。(倉知)
「絶対、やり遂げてやる。このままじゃ、終われない。優秀な人間を確保するためには、再建計画を1年前倒しする必要がある。若いエンジニアも、うちにくれば、挑戦的な仕事ができる。有能な人材の採用を早く開始したい。事業部からは人手が足りないと言われるようになった」(和田)

 兼松の挑戦は始まったばかりだ。多くの不採算事業を保有し、あえいでいる大企業は兼松を見習ってほしい。雇用を守って全滅するのか、生き残るのか。その選択は経営者がすべき課題である。そして、投資家は、復活まであと一歩まできた兼松を是非応援してほしい。

 投資とは、客観的に技術評価をし、収益性を見極め、将来性を見通した上で、なされるものである。しかし、それ以上に、事業をやっている人間の実行力が問われるものである。客観的に優れた技術が、なぜか泥臭い古い技術に敗れ去ることもある。それは人間がそういうものだからである。

 人間はのめり込んでしまう。誰かを好きになってしまう。投資も例外ではない。だが、ひとつだけいえることがある。みんなから応援される人間は成功する確率が高いということ。そして、応援したい気持ちにさせるのは、絶え間ない努力、強いリーダシップ、壮大なビション、ひきつけられるような人柄などであろう。人間はひとりではなにもできない。倉知は、商社のレゾンデートルを示したという功績によって、これからも投資家の絶大なる支持を得るだろう。

 世の中、やる気のない経営者が多すぎる。投資家はそんな大量の無能経営者たちに、いい加減、頭に来ているのだ。不採算の事業をやめればEPSが倍以上になる銘柄は数多い。なぜ、やめないのか?これほど頭にくることはなかろう。それをやってくれた倉知・和田コンビに拍手喝采となるのはやむをえない。

 兼松は、日本企業が復活するためにはどうしたらよいかの答である。首位でも2位でも3位でもない、万年下位の冴えない会社が、どうして、今、市場で一番光っているのか?

 財務内容が悪くても、社員のやる気がなくても、シェアが低くても、技術がなくても、なにもなくても、一番になれる。オーナー経営者でなくても、リストラは断行できる。ストックオプションがなくても、人間は誇りだけて行動できる。人間は和田の言うととおり、だれもが「裸で勝負できる」のだ。

 兼松が出来るのなら、どんな企業だって復活できるはずである。日本再生の展望を与えてくれた社長に感謝している。日本は復活する。(大原)


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