昭文社(東9475) 2000/05/26更新

2000/05/26(金)

昭文社(東9475) ☆☆

 大原です。「億近」も両津さんが復帰して、精力的な活動を続けていらっしゃいます。両津さん、復帰おめでとう!
 プロジェクトチームのみなさん、祝辞が遅れましたが、「億近」100号を突破おめでとうございます。

さて、今回は、久しぶりに個別銘柄を取り上げます。昭文社です。

昭文社 (東9475):
 株価3800円(25日前場引け)
 時価総額:660億円
 EV: 660億円(エンタープライズバリュー=時価総額+純負債)
 EBITDA(3/2001):49億円
 EV/EBITDA 13.5x

【事業】
 地図出版(売上構成比46%、シェア8割)、電子出版(売上構成比5%)、
 雑誌(25%)、ガイドブック(14%)

【地図出版事業】
 地図の出版は、定期的に改訂していくニーズがある一方、古い版が繰り返し使えるため、他の出版事業(例えば、新聞)に比べて、利益率の水準は高くなります。版をメンテナンスしていくことで、新しく版を起さなくてよいから、改訂版では初期費用が押さえられます。これが新聞などでは、一回ごとに版が使い捨てになってしまいます。そこで新聞は、紙の質を落としたりして、採算を保つことになります。

 昭文社としては、さらなるコストダウン化を図るために、版製作のプロセスを大幅に改善してきました。まず、版をメンテする際、削ったり貼ったりしていた地名などの情報をデジタルデータとして、インプットし直しました。地図職人に頼ることなく、版のメンテができる体制を構築してきました。外注費が大幅に削減できています。それが、業界が不振の中で、一定の利益を確保できている理由です。そして、そのデジタル情報は、電子出版の元データになり、新たに、電子地図という事業を創出しつつあります。

 書店との綿密な関係、高いシェアに裏付けられたブランド価値、大手が参入するには小さすぎる市場規模など、長期的に供給が限られる条件はそろっています。ですから、昭文社は、よい投資対象になりえます(高シェア、高利益率)。

 一方、地図というものは、書店にとって、やっかいなものです。一応の品揃えが必要です。北は北海道から南は沖縄まで、一応揃っていることが肝心ですが、毎日売れるようなものでもないので、結果として、高い返品率(約25%)となってしまいます。返品のコスト負担は出版側です。

 近年、経営不振の書店、特に個人経営の小型店舗の倒産が高水準になっています。昨年は、1000店を越える書店が廃業となりました。昭文社にとって、その在庫処理の損失だけで数億円になります。高い返品率に加えて、出版業界の構造的問題(再販価格制度下で庇護された小規模書店)など、不確定要因が大きな事業です。

 昭文社の本業は、全国レベルの認知度(ブランド)や「再版」による版の使いまわしによる平均以上利益率の確保、という良い面と、「再販」という不確定要素が大きい悪い面とを併せ持ちます。

 不確定要素が多いと、株価のボラティリティーが高くなります。結果として、ベータは1.5倍以上です。高いベータの原因は、返品率が高いため、業績の振れも大きいからです。わたしの試算では、20%程度の利益の振れを毎年覚悟しなければならないと、出ました。後述する電子出版がなければ、この会社の株価は、2000円程度が妥当なところです。

【電子出版事業】
 株価を支えているのはこの事業です。地図をネットで配信する、地図データのカーナビへの提供、GIS事業(行政の紙地図から電子地図への転換)など、順調に売上を伸ばしています。前期は10億円、今期(2001年3月期)は20億円を目指します。中期的には、50億円を達成できると考えます。

 なぜか。
 地図の総利用回数は、今後、どうなっていくでしょうか。例えば、携帯電話が普及したことで、電話をかける回数は確実に増えました。1日に1人がかける平均回数は、どの程度増えたでしょうか。音声だけでなく、i-modeの普及でデータを得るために、平均的な携帯の使用回数は倍程度になった(または、今後なっていく)のではないでしょうか。

 携帯端末が普及した今も、家庭では固定電話が存在しています。ファックス機能やスキャナ機能を搭載した固定電話はそのまま生き残っています。これは固定電話と携帯電話の棲み分けといって、固定電話は、苦戦しながらも生き残り、NTTの株価が大きく崩れない根拠のひとつになっています。

 地図はこれまで、バラ売りされることがありませんでした。東京都の地図は東京23区をまとめて買わないと買えません。中央区だけの地図は、住宅地図となり、あまりにも細分化されたもので、これも高価なものです。わずかの金額でわずかの情報を得るということが消費者はできませんでした。例えば、東京駅だけの地図を10円で販売するという行為が経済的に成り立ちませんでした。

 地図もすべてが電子化される必要はありません。電子地図は、表示画面が小さい、紙のような物理的な質感がない、バッテリーを消費し続ける、書き込みができない、などの明らかな欠点があるからです。しかし、本のような重量がない。一方で、検索が容易である、自分の位置がリアルタイムで表示できる、などの明らかな長所も存在します。長所と短所がはっきりしているので、紙と電子、両者は棲み分けることができます。「棲み分け」が確実であれば、結果として、総需要は増えていきます。地図を車に積みながらも、カーナビを利用したり、オフィスに地図がありながらも、出先で携帯から地図を取り込んだり、ということが往々にして起こるからです。利便性のために、重複する経済コスト(紙と電子)をユーザーが負担してしまうのです。

例としては、会社に置き傘をする人は、利便性のために、傘への経済負担を倍以上非合理的に支払っていることになります。このような金銭的には非合理だけど、効用的には合理的な現象は他にもいろいろあります。

 利便性が高まることに加え、地図の切り売りによるなどにより、価格も手ごろになります。一回の利用について5円の価格であったとしも、地図関連の市場は年間1000億円程度に達するでしょう。地図の総利用回数(総需要)は確実に増えます。

 事業を分析する上では、使用頻度が高まる事業をよい事業、使用頻度が落ちていく事業はわるい事業です。例えば、歯ブラシ。みんなが1日2回の歯磨きを1日4回することになれば、歯ブラシの需要は2倍になります。例えば、自動車。みんなが1年で新車に買い換えるなら、需要は数倍になります。TV。みんなが半年で買い換えれば…。しかし、そんなことは絶対に起こりません。

 ところが、電話をかける回数は飛躍的に多くなりました。地図をみる回数も減る事はありません。ですから、利用回数、利用頻度がこれから多くなる電子地図のような事業は魅力がある事業なのです。電子事業の価値は、試算で、200〜300億円です。ですから、既存の書籍事業の価値400〜600億円とあわせて、昭文社の適正価値は600億円から900億円でしょう。株価は、1年程度のスパンで、5000円程度まで上昇する可能性があります。

【昭文社のまとめ】

  • 紙地図と電子地図は棲み分けが可能
  • 棲み分けが可能なので、地図の需要は確実に増加する
  • 業績の不確定要素は、バリエーションを切り下げる(PER30倍がいいところ)
  • 特定の分野に特化した優良企業は、経営資源を有効に消費している ・総合的には、
  • 長期保有の対象として魅力的
しかし、地合いが悪い。(大原部長)
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